鎮静下のカプノメータ波形を最大限に生かすために

今回は、鎮静時のカプノメータの波形の見方について学んでいこうと思います。
当然、呼気終末二酸化炭素分圧(etCO2)は、換気だけではなく、全身の代謝や、循環といった要素からも影響を受けます。たとえば、代謝が亢進するような病態(感染で全身性炎症反応症候群や、悪性高熱など)では、その値は上昇しますし、心拍出量が減少すれば、減少していき、心停止で蘇生が行われていない状況では0になります。
ただ、クリニックさんで鎮静を行っている状況では、そこまでハイリスクの合併症がある方を扱うことは想定していません。ですからここでは、「カプノメータを換気の評価にどう活かすか」という論点に限定して考えていこうと思います。
まず最初に、正常なカプノメータ波形について学んでいきます。

Krauss B, Hess DR. Capnography for procedural sedation and analgesia in the emergency department. Ann Emerg Med. 2007 Aug;50(2):172-81.
上のような矩形波(台形型)が正常な呼気CO2波形で、これで1回の呼吸サイクル分になります。
左端が呼気の始まりで、そこから第Ⅰ相から第Ⅳ相までを経てベースラインに戻っていきます。ざっくり、
第Ⅰ相は、吸気の最後から呼気の初期で、解剖学的死腔(気管・気管支など、肺胞以外の部分)のガスが呼出されます。そのため、CO2分圧は0 mmHgです。
第Ⅱ相に入ると、肺胞からCO2を含んだガスが排出されるため、呼気中のCO2濃度が急激に上昇します。
第Ⅲ相でプラトーになります。肺胞からのガスが排出されているため、わずかに右肩上がりのほぼ平坦な波形になります。この相の最後のCO2分圧が、etCO2の値となります。
第Ⅳ相では、吸気が開始され、CO2分圧が低下して基線(0 mmHg)まで戻ります。
鎮静中は、呼気CO2を完全にサンプリングできるわけではないので、波形が小さくなることがありますが、基本的には大気と希釈されているだけなので、スケールを変えれば、波形としても正常であれば矩形波になっているはずです。
続いて、異常な波形の形を学んで、カプノメータ波形を鎮静中の気道の評価に生かせるようになりましょう。
まずこちらは先ほども提示した正常波形です。きれいな矩形波で、etCO2は、40 mmHg弱です。

続いてこちらは、どうでしょうか?etCO2は減少、呼吸数は多くなっています。

これは過換気の状態です。過換気の原因にもよりますが、基本は特に介入は必要なく問題ありません。鎮静が浅い可能性もあるので、鎮静度は確認すべきでしょう。
続いては、こちらです。呼吸数が減少し、波形が大きくなっています。

これは、徐呼吸性低換気の状態です。
ここでの対応はSpO2次第で分かれます。もし、SpO2が正常なら患者さんの状態を再評価する必要はありますが、特に対応はいりません。しかし、SpO2が低下してきているなら、問題です。気道の閉塞を疑って、評価する必要があります。追加の酸素投与を検討したり、鎮静剤の量を減らしたり、鎮静自体を止める必要があります。
クリニックでの鎮静の状況で、このように徐呼吸+低酸素血症になる場合、オピオイド(ペンタゾシン(商品名ソセゴン)、フェンタニルなど)が効きすぎている可能性があるので、ナロキソンで拮抗することも考慮しなくてはいけません。
続いては、こちらです。あるところから呼吸数はほぼそのままですが、波形が小さくなってしまっています。

これは、低呼吸性低換気の状態です。
この場合でも、SpO2が問題なければ、患者さんの状態を再評価した上で、鎮静を継続できます。ただし、先ほど同様、SpO2が低下していれば、気道の閉塞を疑って、評価する必要があります。追加の酸素投与を検討したり、鎮静剤の量を減らしたり、鎮静自体を止める必要があります。
次は、似ていますが、こちらのような場合です。先ほどと違うのは、呼吸が規則的ではないところです。

この場合では、SpO2が正常であったとしても、なんらかの呼吸の問題があると思われるので、すぐに患者さんの気道の評価をしましょう。似ていますが、切迫感が変わってくるイメージです。
続いては、こちらで、波形にばらつきがある場合です。ただし、SpO2は正常、etCO2も正常、という場合です。

これは生理的な変動と思われるので、特に介入なしで大丈夫です。うまく呼気CO2を拾えてないかもしれませんので、サンプリングの確認は必要です。
続いては、こちらです。わかりにくいのですが、第Ⅲ相、プラトー相(矩形波の上側のところ)が右肩上がりに変化しました。SpO2は下がっている場合もあれば正常のこともあるでしょう。

これは、気管支攣縮の所見です。喘息発作のような状態で、末梢気管支が痙攣して狭窄しています。胸部の聴診をしたら、呼気に高調な笛吹音、wheeze音が聴こえてくるでしょう。この場合、鎮静剤の投与をやめて、気管支拡張薬を吸入する必要があります。
ただ、波形の変化から初めて気管支攣縮を検出するというより、その前に呼吸様式の異常があったり、wheezeが聴こえたりすると思います。喘息の既往症が元々ある人では、鎮静・処置に伴って発作が起こる可能性が高いので、普段よりも警戒しておくべきです。
続いては、こちらです。波形は正常のようにみえます。ただし、グゴーというような大きないびき音もしくは、息を吸うときに喘ぐような音が聴こえてきました。

この場合は介入が必要です。部分的に気道閉塞しているか、喉頭痙攣している場合があります。舌根沈下を解除して、気道を開通させるような操作(例えば、肩枕をいれる、下顎を持ち上げる、それでもだめなら経鼻エアウェイなどの挿入をしてみる)をして、音が解除されるなら部分的に気道閉塞していたということですが、それで音が継続するなら喉頭痙攣している場合があります。喉頭が痙攣して声門がきゅっと閉じてしまっている状態です。痛み刺激や気道の分泌物でこのような状態になることがあります。
ちなみに、stridorというのは、息を吸うときに聴かれる、喉をぎゅっと詰めて発せられるような、喘ぐような高調の音です。stridorは、こちらで聴いてみてください(MDS Manualsより)。いびきとは全く異質な明らかにマズそうな音なのがわかります。
喉頭痙攣の対応については、またいずれどこかで掲示できればと思いますが、処置と鎮静剤投与を止め、酸素を追加投与、完全な喉頭痙攣となり、呼吸停止している場合では、バッグバルブマスクをフィットさせ、陽圧換気が必要になります。
最後は、下のような形です。あるところから全く波形がなくなりました。

呼吸停止をしています。この場合は、緊急で対応が必要です。完全な気道閉塞がある場合もありますし、さきほどの喉頭痙攣が発生している場合もあります。
ただ単に、鎮静剤が効きすぎて呼吸が止まってしまっているなら、患者さんに呼びかけたり叩いて刺激しましょう。鎮静剤を投与開始した入眠直後や、処置の刺激がなくなった終了後、などに多いと思います。それでも呼吸がでなければ、SpO2が下がる前にバックバルブマスク換気が必要です。鎮静剤の投与中止、拮抗薬の投与も考慮しましょう。
いかがでしたでしょうか?
今回は、「鎮静された患者のカプノメータ波形の異常を換気の評価に生かす」というテーマで勉強してきました。
カプノメータが出る出ない、だけではなく、波形から読み取れる情報は多いので、ここまで踏み込めればかなり有用なことは間違いないです。
次回は、実際に気道が閉塞したらどうしたらいいのか、ということを考えていきたいと思います。
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