医療事故の判例から学ぶ鎮静

本日は、過去に発生した鎮静関連の医療事故の判例を2つ取り上げ、そこから学べることを考えていこうと思います。「先人から学んで、同じ過ちを繰り返さない」というのは大事なことです。
判例1:神戸地裁令和3年9月16日判決、鎮静剤の投与後低酸素脳症で約1億3800万円の支払いを命じる。
神戸新聞「薬投与を巡り過失 神戸・中央市民病院に1億3800万円賠償命令 地裁」(2021年9月17日)は次のとおり報じています。
「神戸市立医療センター中央市民病院で2013年、患者の女性(55)が手術後に植物状態になったのは医師らの不適切な対応が原因だとして、女性と夫が病院側に約1億5千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で神戸地裁(斎藤聡裁判長)は16日、鎮静剤の投与を巡り過失があったとして約1億3800万円の支払いを命じた。
判決によると、女性=明石市=は13年1月、内視鏡を使って食道静脈瘤(りゅう)を消失させる手術を受けた。鎮静剤の投与後、血中の酸素飽和度が低下し体の動きが激しくなり、鎮静剤を追加投与したところ一時心肺停止状態となり低酸素脳症で寝たきりとなった。」
ここでは、最初にミダゾラム0.08 mg/kg(つまり50 ㎏の人だとしたら4 ㎎くらいでしょうか?)に相当する混合溶液を投与されて呼吸抑制が生じて酸素化低下していたのに、体動が激しいから、という理由でさらにミダゾラムを追加投与しています。また、緩徐に投与するべきとミダゾラムの添付文書にあったが、急速な投与を行い、よって患者に低酸素状態をもたらしたとして、医師側の義務違反を認めました。
これは想像ですが、ミダゾラムを追加投与した医師は、モニターで酸素飽和度が低下していることに気付いていなかったのではないでしょうか?
ミダゾラムの添付文章には、鎮静時の使用に関して、こうあります。


「緩徐に投与」「患者の状態を考慮して」
という文言通りに使用されなかった、として裁判では医師に義務違反があると認められています。ミダゾラムは効果発現時間にも2-5分ほどかかります。最初の投与からある程度時間をおいてから鎮静度は評価するようにしましょう。少し待って効いていないからと追加投与していくと、過鎮静になることがあります。
薬を使うときは、添付文章を把握してそれを逸脱した使い方をしないこと
これが、今日皆さんに伝えたいことの1つ目です。
続いて2つ目の判例です。
判例2:神戸地裁平成14年6月21日判決、鎮静剤を用いた内視鏡検査後に自動車事故を起こし610万円の支払いを命じる。
ミダゾラム(ドルミカム)10 mgを用いた鎮静による内視鏡検査後、フルマゼニル(アネキセート)0.5 mgで覚醒させ、自動車で帰宅中に患者さんが再鎮静され意識消失し、交通事故にあったという事例です。事前に「睡眠導入剤を使用する旨の説明を受けなかったこと」、また、「同薬による影響で同検査後、数時間自動車運転が危険であるとの説明を受けなかったこと」から説明義務違反があったのではないか、ということが主な論点になりました。再鎮静によって眠くなることがある、という説明はあったようですが、具体的に、「自動車を運転しないように」という指導はなかったということで、医師側の過失が認められました。
ここでの教訓は以下の通りです。
ミダゾラムによる鎮静の後フルマゼニルで拮抗させる場合、再鎮静に気を付ける。
「再鎮静の可能性があるため、2~3時間は自動車を運転しない」ということを事前にしっかり説明する。同意書にも明記しておく。

有名ですが、ミダゾラムの効果持続時間が2時間ほどなのに比べて、フルマゼニルは30分ほどしか持続しないので、しばらくしてから再鎮静がおこる可能性があります。事前の説明同意書に、「自動車を2,3時間は運転しない」と明記し、口頭でも説明しましょう。
2つの医療事故の判例から学んできました。
過去の判例をもとに安全な鎮静を実現していけたらいいですね。
鎮静のご相談の方はお問い合わせからご連絡をいただければと思います。
それではまた次回。