鎮静時の気道確保

クリニックで鎮静する場面では、下の分類のように、鎮静の深さがニーズによってさまざま変わってきます。

practical_guide_for_safe_sedation_20220628.pdf
最小鎮静というと、「処置中少しぼーっとしていたい、でも受け答えはできる」という状態、たとえば歯科治療で笑気単独で麻酔をする、という状況などが想定できます。中等度鎮静というと、最小鎮静よりは反応が鈍いが、呼びかければ反応する、という状態、たとえば、笑気ではなく、静脈路からミダゾラムを投与したり、少量のプロポフォールを持続注入しているような状態です。
それらの、「処置は基本的には鎮静なしで局所麻酔のみでもできるが、鎮静をしている」という状況では、そこまで深い鎮静が必要でないので、特に気道、呼吸、循環に影響がないことが多く、あまり注意する必要はないでしょう。
ところが、「鎮静がないと痛くてとてもじゃないが処置できない」という場面、たとえば、美容外科クリニックで脂肪吸引をするといった状況では、局所麻酔だけでは痛みを取り切れないので、痛みで体動しないような深鎮静が必要になってきます。このような深い鎮静では、鎮静剤に加えて、オピオイドなどの鎮痛薬が投与されています。気道と呼吸をしっかりモニタリングしないといけないのはそのように鎮静が深くなっている状況です。
深鎮静をしているときに、前回話したような、舌根沈下の兆候がモニタリングされました。
このときの対応を今回学んでいきます。
まず気道確保の基本となるのが、Head-tilt chin-lift(頭部後屈/顎先挙上)です。


上のイラストでは片方の手で頭部を後屈、もう片方の手で顎先を挙上しています。右上のイラストのように仰向けの患者さんが舌根沈下していると舌根が気道を圧排しているので、これを解除するのが目的です。
もう一つ、気道確保で必ず出てくるのが、Jaw thrust(下顎挙上)です。下顎骨を両手で持って、下から上にあげるようにします。頸椎損傷が疑われるような頭部後屈ができない症例で行ったりしますが、通常の舌根沈下した患者さんにも非常に有効です。

さらにこの下顎挙上のときに下のイラストのように開口するとさらに効果的です。

Bag Mask Ventilation With Jaw Thrust
まず開口させて、その上で下顎を両手で上方にあげる形です。
日本麻酔科学会の「麻酔導入時の日本麻酔科学会(JSA)気道管理アルゴリズム(JSA‐AMA)2015」によると、

換気ができない人の気道を開通させるために、「Triple airway maneuversが有効」と書かれていて、これは、

頭部を後屈+下顎挙上+開口
の3つを同時に行うもので、これで舌根沈下して気道閉塞している多くの患者さんの気道は開通するかと思います。
これでもだめなら、エアウェイを挿入してもよいと思います。エアウェイには経口と経鼻がありますが、個人的には鎮静の状況で経口エアウェイを選択する、という場面はあまりないと思います。経口エアウェイは咽頭反射や嘔吐反射を惹起してしまうので、意識が完全にない患者さんにしか使えないからです。
経鼻エアウェイは、挿入時に鼻粘膜を損傷して鼻出血が起こることがある点には注意しなくてはいけませんが、覚醒している患者さんにも使えるので、かなり有用だと思います。

サイズがいろいろあるので、上の写真のようにまず鼻孔から耳たぶの下までの距離になるように挿入する深さを決めてから使いましょう。適切な深さでないとうまく舌根部を持ち上げてくれないので気道開通効果がなくなってしまいます。潤滑ゼリーをよく塗って、愛護的に挿入します。
これで気道閉塞したままなら、マスク換気をする必要があります。

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上のようなバッグバルブマスクを必ず手の届くところに置いておいて、いつでも使えるようにしましょう。ごくたまにしか使わないので、ほこりをかぶってどこにいったかわからない、なんてことのないようにしましょう。
気道確保の方法について学んできましたが、手術自体はまだ続くという状態で、鎮静を継続する必要がある、でもずっと気道を支え続ける人員を確保しているわけにはいかない、という施設が多いと思います。
その場合、うまく気道が確保されるようなポジショニングをしていきます。
たとえば、肩枕です。

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肩の下に枕を入れて、自然に頭部後屈となるようにすると気道が通ることがあるでしょう。
頭部を左右に向けるのも有効なことがあります。
また、下顎挙上をずっとできる装置も販売されています。たとえば、
下のように下顎挙上した姿勢を維持できるようなJaw elevation device (通称JED)のような製品もありますので、使用するのも有用です。患者さんの下顎があたるパッドのところだけがディスポの製品になっています。


Jaw Elevation Device (JED) - Hipac
これがかなり有効で、気道確保に気を取られず他のことに注力できるようになるので、おすすめです。
以上、今回は、鎮静中の気道確保について学んできました。
安全に気道を確保して、ストレスのない環境で手術に集中していただければと思います。ご質問、ご相談があれば、お問い合わせ頂ければ幸いです。