生成AIをクリニックでの鎮静に役立てられるのか

昨今、生成AIの医療業界における活用範囲が広がってきています。診療支援や患者管理、医療文書の作成や、新規薬剤の開発にも応用されつつあります。
「医師がAIを使うよりAI単独の方が診断能力が高い」というJAMAのRCTが発表されたり(Large Language Model–Based Responses to Patients’ In-Basket Messages | Health Disparities | JAMA Network Open | JAMA Network)、その一方、「AIによる診断や治療では思考の偏りがケースによっては人間よりも大きいことがあり注意が必要」とするものもあったり(Cognitive Biases and Artificial Intelligence | NEJM AI)、まだまだ生成AIを臨床に応用するのは議論が必要となっている状況となっています。また、生成AIを使って診断治療を行って、事故が発生したら、責任の所在はどこにあるのか、といった倫理的な問題も未解決であり、活発に議論されている最中となっています。
今回は、生成AIがクリニックでの鎮静プランの設計に臨床応用できるレベルにどれほど近づいているのか、現役麻酔科専門医の視点でチェックしつつ、試してみました。

生成AIは、OpenAIのChatGPT4(GPT-4o)を用いました。GPT-4oは、回数制限があるものの、無料ユーザーも使用することができます。
色々なやり方を試してみましたが、鎮静プランのためのプロンプトは下記のように作成してみました。
※現時点では臨床現場で実際に使用することを推奨するものではなく、あくまでどの程度臨床応用に近づいているかテストする意図で行っています。

今回使用した鎮静プランの提案のためのプロンプト

クリニックでの具体的な鎮静方法を提案してください。薬剤の使用は添付文書を逸脱しないこと。また、鎮静に伴う注意点も指摘してください。必要なら局所麻酔も使用可能です。必要なければ使用しない鎮静薬があってもよいですし、追加すべき薬剤があれば提案してください。
手術:
患者:
薬剤:

ここに、

手術:胃カメラ
患者:既往のない30歳女性
薬剤:プロポフォール、ソセゴン

と入力すると、以下のように出力されます。

胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)における鎮静方法(添付文書を遵守)

手術: 胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)
患者: 30歳女性(既往なし)
使用可能薬剤: プロポフォール、ソセゴン(ペンタゾシン)
局所麻酔: 必要に応じて使用


1. 術前準備
(1) 評価・準備
問診・術前評価(ASA分類、アレルギー、BMI、胃内容物の有無を確認)
モニタリング: SpO₂、心拍数、血圧、EtCO₂(可能なら)を持続監視
静脈ルート: 20G~22Gで確保
酸素投与: 鼻カニューラ 2~3L/分(呼吸抑制予防)
局所麻酔: リドカインスプレーによる咽頭麻酔を実施(反射抑制目的)


2. 鎮静方法(プロポフォール + ソセゴンの併用)

(1) 麻酔導入

  1. ソセゴン(ペンタゾシン)7.5mg 静注(鎮痛補助目的)
    • 7.5mg(0.5A)を 2分以上かけて緩徐に静注
    • 吐き気・めまいの有無を観察
  2. プロポフォール 0.5~1.5 mg/kg 静注(添付文書記載の範囲内)
    • 例: 50kg の場合 **25~75mg(2.5~7.5mL)**を 30秒以上かけて緩徐に静注
    • 目標: 軽度~中等度鎮静(自発呼吸維持・反応は鈍いが刺激に反応するレベル)
    • 鎮静状態を確認しながら調整

(2) 内視鏡挿入時の追加投与
✅ 反射が強い場合、プロポフォール 10~20mg(1~2mL)追加静注可能
✅ 血圧低下や呼吸抑制に注意


(3) 鎮静維持(必要に応じて)
✅ 検査時間が長い場合、プロポフォール 3~6 mg/kg/時 で持続静注(添付文書範囲内)
✅ 内視鏡検査中は血圧低下、SpO₂低下を監視


3. 覚醒・回復
内視鏡検査終了後、プロポフォールの投与を中止
自発呼吸・覚醒レベルを確認
リカバリー室で30分程度観察
完全覚醒し、血圧・呼吸安定を確認後に帰宅許可


4. 注意点・リスク管理

(1) 呼吸抑制リスク

  • プロポフォール単剤でも呼吸抑制・低酸素が起こりうる
  • SpO₂低下(<92%)の場合: 酸素増量・マスク換気を考慮

(2) 血圧低下リスク

  • プロポフォールは血管拡張作用があり、低血圧に注意
  • 輸液を適切に行い、低血圧時は対応準備を整える

(3) ソセゴンによる悪心・嘔吐

  • ペンタゾシン(ソセゴン)は嘔気・めまいを起こすことがあるため、注意
  • 必要ならメトクロプラミド(プリンペラン)10mg 静注を考慮

(4) 術後の遷延性鎮静・誤嚥リスク

  • 完全覚醒を確認するまで帰宅不可
  • 咽頭麻酔が残存している場合、1時間程度の飲水・食事制限を指導
  • 24時間の運転・機械操作禁止を指導

5. 追加可能な薬剤の提案

(1)鎮静の質を向上させるための追加薬剤(オプション)
ミダゾラム 2.5~5mg 静注(添付文書内)

  • プロポフォールの使用量を抑え、覚醒時間を安定化
  • 健忘効果により検査中の不快感を軽減
  • ただし、呼吸抑制が強くなる可能性があるため、少量から開始

✅ まとめ:
プロポフォールを添付文書の範囲内で慎重に滴定
ソセゴンを併用して鎮痛を補助するが、嘔気・めまいに注意
局所麻酔(咽頭麻酔)を適切に使用し、検査時の苦痛を軽減
呼吸・循環をモニターしながら酸素投与を維持
術後の回復を十分に観察し、安全に帰宅できることを確認
ミダゾラムの追加を検討すると、鎮静の質が向上し、プロポフォールの使用量を抑えられる可能性あり

この方法なら、添付文書を遵守しつつ、安全な鎮静が可能です。

おおむね賛同できる回答なのですが、いくつかおかしいところがあって、まず、胃カメラのような短時間の疼痛の少ない手技の鎮静で、鎮静薬に加えて、ペンタゾシンのような鎮痛薬は必要ないことが多いので、その情報が含まれていないのと、プロポフォールでの鎮静にオプションでミダゾラムの投与を提案していますが、胃カメラの鎮静で、2剤の鎮静剤を投与するのは一般的ではない、むしろ呼吸抑制をきたしうるので用量を間違えると危険だと思います。

また、以下のように、手術をより侵襲の大きいものに変えて入力すると、

手術:腹部の脂肪吸引
患者:既往のない30歳女性
薬剤:プロポフォール、ソセゴン

以下のように出力されます。

腹部脂肪吸引における鎮静方法(添付文書を遵守)

手術: 腹部の脂肪吸引
患者: 30歳女性(既往なし)
使用可能薬剤: プロポフォール、ソセゴン(ペンタゾシン)
局所麻酔: 併用可


1. 術前準備
(1) 評価・準備
問診・術前評価(ASA分類、アレルギー、BMIなどを確認)
モニタリング: SpO₂、心拍数、血圧、EtCO₂(可能なら)を持続監視
静脈ルート: 20G~22Gで確保
酸素投与: 鼻カニューラ 3~4L/分(呼吸抑制予防)


2. 鎮静方法(プロポフォール + ソセゴンの併用)
(1) 麻酔導入

  1. ソセゴン(ペンタゾシン)7.5~15mg 静注(鎮痛目的)
    • 15mg(1A)を 2~3分かけて静注
    • 吐き気・めまいの有無を観察
  2. プロポフォール 1.5~2.5 mg/kg 静注(添付文書記載の範囲内)
    • 例: 50kg の場合 **75~125mg(7.5~12.5mL)**を 30秒以上かけて緩徐に静注
    • 呼吸抑制・血圧低下を観察しながら慎重に投与

鎮静レベル: 中等度鎮静(反応は鈍いが自発呼吸あり)を目標


(2) 局所麻酔の併用
✅ **リドカイン + アドレナリンを含むTumescent麻酔(膨潤麻酔)**を使用
適切な局所麻酔によりプロポフォールの使用量を抑え、安全性を高める


(3) 麻酔維持
プロポフォール 4~12 mg/kg/時 で持続静注(添付文書範囲内)

  • 低用量で開始し、鎮静状態を評価しながら調整
  • 必要なら 20~30mg(2~3mL) 追加静注

血圧低下に注意: 収縮期血圧 90mmHg 未満の場合は 補液またはエフェドリン 5-10mg 静注を準備


3. 覚醒・回復
脂肪吸引終了後、プロポフォールの投与を中止
自発呼吸・覚醒レベルを確認
リカバリー室で30~60分観察
完全覚醒し、血圧・呼吸安定を確認後に帰宅許可


4. 注意点・リスク管理

(1) 呼吸抑制リスク

  • プロポフォール + ソセゴンの併用により、呼吸抑制・低酸素リスクが上昇
  • SpO₂低下(<92%)の場合: 酸素増量・マスク換気を考慮

(2) 血圧低下リスク

  • プロポフォールは血管拡張作用があり、低血圧に注意
  • 輸液を適切に行い、低血圧時は対応準備を整える

(3) ソセゴンによる悪心・嘔吐

  • ペンタゾシン(ソセゴン)は嘔気・めまいを起こすことがあるため、注意
  • 必要ならメトクロプラミド(プリンペラン)10mg 静注を考慮

(4) 術後の遷延性鎮静・転倒リスク

  • 完全覚醒を確認するまで帰宅不可
  • 24時間の運転・機械操作禁止を指導

✅ まとめ:
プロポフォールを添付文書の範囲内で慎重に滴定
ソセゴンを併用して鎮痛を補助するが、嘔気・めまいに注意
局所麻酔を適切に使用し、全身投与薬の必要量を減らす
呼吸・循環をモニターしながら酸素投与を維持
術後の回復を十分に観察し、安全に帰宅できることを確認

この方法なら、添付文書を遵守しつつ、安全な鎮静が可能です。

という形で、局所麻酔薬の使用に関してTumescent麻酔のことが書かれていたり、1つ目に提示した胃カメラより侵襲が大きく、時間が長い分、プロポフォールの投与量が変わっていたり、と手術内容や患者情報に合わせて、鎮静剤の量を調整したり、留意事項を挿入したり、臨機応変に異なるプランを提示していました。他にもいろいろな条件で聞いてみましたが、おおむねプランとして納得できるものではあるものの、まだまだそのまま臨床応用するのは危険そうな印象でした。使用する鎮静薬の選択や量に関しては、個々の患者によってまちまちで、正解がない問題となるので、生成AIにとって確固たる学習データのない、なかなか精度が上がっていかない分野ではあるというのが難しいところです。
他にも問題としては、「できない」とは言えないことで、例えば「手術:  」のところに「手術:虫垂切除」とか入れると、本来は全身麻酔ないし脊髄くも膜下麻酔などが必要な手術なのに、無理矢理鎮静でやろうとするなど、無謀な提案もしてくるので注意が必要です。(一応その場合、全身麻酔を推奨します、とは言ってくれました。)
現状臨床での使用に耐えないのですが、将来的に臨床応用できるレベルまで精度が上がることを期待します。

ちなみにGPT-3.5での回答は、かなり質が低くなり、添付文書をそのまま書き移したようなものになります。これに限らず、Chat-GPTで何か生成したい場合は、月額20ドルで有料プランを契約して、制限少なくGPT-4oを使用することをおすすめします。

少し長くなってしまいますが、同意書作成においては、かなり強力なツールだと感じましたので、紹介したいと思います。

同意書作成のためのプロンプト

ガイドラインを遵守した日帰り静脈麻酔の説明同意書を作成してください。
出力は、Wordファイルでお願いします。

これに対し、以下のような回答がWordファイルとして得られます。

意外にもかなりわかりやすい説明同意書が出力されました。以前のブログでお伝えした、鎮静後に自動車の運転をしない、ということもしっかり述べられていて感動しました。(2025/01医療事故に関するブログはこちら
不足しているところもあって、術前の経口摂取制限について追記しておくべきかなとは思いますし、個々のクリニックに合わせた細かい修正は必要だと思います。場合によって、患者さんに応じて、文言をより平易にしたり、詳しく説明したり、オーダーメイドで同意書に手を加えることも、対話形式で簡単にできるので、「同意書に一体なにを書けばいいのかわからない」というクリニックでは有用性は高いのでは、と思います。
また、ここでは、紹介しませんが、他にも、鎮静のためのチェックリスト四肢の抑制のための同意書なども作成可能です。もちろん作成後に医師がチェックして最終的に使用する必要があります。
鎮静のプランニングとして使用するのはまだかなり怪しいですが、クリニックでの鎮静関連の医療文書作成においては十分応用可能なのではと思いました。

以上、クリニックでの鎮静において、生成AIが現状どの程度臨床応用に近づいているかを紹介しましたが、生成AIは競うように月単位で進化しており、今後さらにブラッシュアップされて精度が上がっていくのでは、と思っています。
将来的に生成AIが医療に使われていくのは間違いないと思います。しかし、生成AIの回答を使いこなすために我々医療従事者がよく本質を理解していないと、安全な医療を提供するところからは離れて行ってしまうのでは、と思います。
最後になりますが、鎮静のプランニングにおける生成AIの使用はまだ診療で使用可能なレベルに至っていないということはお忘れなきようお願いします。最終責任はあくまで鎮静をする医師にあるので、仮に将来的に生成AIがクリニックでの鎮静現場で臨床応用されたとしても、あくまで診療補助をしてもらう、という使い方が正しいでしょう。

今後もクリニックでの鎮静に関係した新しい情報をお届けしていければと思います。ご質問あればお気軽にお問い合せください。